この単元の位置づけ
前の単元(古代の東アジア)で扱った中国と、この単元のインドは、仏教という一本の糸でつながります。クシャーナ朝で成立した大乗仏教が中央アジアを経て中国へ伝わるからです。次の単元(イスラーム世界の成立)以降、南アジアはイスラーム勢力の進出を受けることになります。
都市が先にあり、その担い手が分からない
インダス文明
ハラッパーやモエンジョ=ダーロに代表される計画都市が築かれ、排水設備や公共浴場を備えていました。印章に刻まれたインダス文字は未解読のままで、この文明の担い手や滅亡の理由は確定していません。その後、アーリヤ人が西北から進入し、やがてガンジス川流域へ移動して定住農耕を営むようになります。
身分の枠組みが、宗教として固定された
ヴァルナとバラモン教
アーリヤ人は神々への讃歌をまとめたヴェーダを聖典とし、司祭のバラモンを頂点に、クシャトリヤ(武士)、ヴァイシャ(庶民)、シュードラ(隷属民)という四つの身分(ヴァルナ)を形成しました。これがのちに職業集団(ジャーティ)と結びつき、カースト制度と呼ばれる社会構造になります。祭式を独占するバラモンの権威は、この枠組みに支えられていました。
商工業の発展が、新しい宗教を生んだ
仏教とジャイナ教
ガンジス川流域で都市と商工業が発達すると、経済力を持つクシャトリヤとヴァイシャが台頭します。彼らにとって、生まれによって祭式を独占するバラモンの権威は納得しがたいものでした。
この不満を背景に、二つの宗教が生まれます。身分にかかわらず修行によって救われると説く仏教(ガウタマ=シッダールタ)と、徹底した不殺生と苦行を説くジャイナ教(ヴァルダマーナ)です。
新しい宗教は、新しい階層の支持を受けて広がった——ここが論述で問われる要点です。
最初の統一王朝は、仏教を支柱にした
マウリヤ朝
チャンドラグプタが建てたマウリヤ朝は、アショーカ王の時代に最盛期を迎えます。王はカリンガ征服の際の惨状を悔いて仏教に帰依し、ダルマ(法)による統治を掲げました。その理念は磨崖碑や石柱碑に刻まれ、仏典の結集が行われ、スリランカへも布教されます。ここで広まったのは、出家者の修行を重んじる上座部仏教の系統です。
次の統一では、宗教も美術も入れ替わった
クシャーナ朝とグプタ朝
クシャーナ朝はカニシカ王の時代に栄えました。ここで成立したのが大乗仏教——出家しない者も含めた広い救済を説く立場です。西方との交流を背景に、ヘレニズムの影響を受けたガンダーラ美術が生まれ、仏像がつくられるようになります。
続くグプタ朝では、バラモン教が民間信仰を取り込んでヒンドゥー教として定着しました。『マヌ法典』が整えられ、サンスクリット文学が栄えます。
美術もインド的な様式(グプタ様式)に変わり、アジャンター石窟に代表される作品が残りました。数学ではゼロの概念が確立されています。
混同しやすいところ
正誤判定の誤り選択肢は、ここを狙って作られます。
上座部はマウリヤ朝期にスリランカ・東南アジアへ。大乗はクシャーナ朝期に成立し、中央アジアを経て中国・朝鮮・日本へ。王朝・時期・伝播先の3点セットで覚えると入れ替えに気づけます。
チャンドラグプタ=マウリヤ朝の創始者。チャンドラグプタ2世=グプタ朝の最盛期の王。名前がほぼ同じで王朝が違うため、狙われやすい箇所です。
ガンダーラはクシャーナ朝期、ヘレニズムの影響を受けた写実的な仏像。グプタ様式はグプタ朝期のインド的な様式。図版問題では、この2つの見分けがそのまま設問になります。
アショーカ王=マウリヤ朝、ダルマによる統治、石柱碑。カニシカ王=クシャーナ朝、大乗仏教の保護。どちらも「仏教を保護した王」なので、王朝とセットで区別してください。
早稲田・明治・青山学院ではこう問われる
南アジアは文化史の比重が大きく、美術様式・宗教・文学が絡み合う分野です。学部によって求められる形が変わります。
この単元は、入試でこう問われる
出題形式ごとに例題を用意しました。答えを見る前に、まず自分で書いてみてください。
古代インドについて述べた文として誤っているものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。
- インダス文明の都市では、排水設備を備えた計画的な都市建設が行われた。
- ヴァルナ制では、司祭であるバラモンが最上位に位置づけられた。
- アショーカ王は、ヒンドゥー教に帰依し、その理念を石柱碑に刻ませた。
- グプタ朝の時代に、サンスクリット文学が栄えた。
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なぜ誤りか。アショーカ王が帰依したのは仏教です。ヒンドゥー教が国家の支柱として定着するのは、のちのグプタ朝の時代です。宗教が入れ替えられています。
この設問の型。王朝と宗教の対応をひとつずらす型です。この単元は「マウリヤ=仏教/クシャーナ=大乗仏教/グプタ=ヒンドゥー教」という対応が骨格なので、ここを崩す誤り選択肢が繰り返し作られます。
次の文中の空欄( A )〜( C )に入る最も適切な語句を答えよ。
クシャーナ朝の( A )王の時代には、広く衆生の救済を説く( B )仏教が成立した。またこの地域では、ヘレニズムの影響を受けた( C )美術が生まれ、仏像がつくられるようになった。
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この設問の型。三つの空欄が同じ時代の三つの側面(政治・宗教・美術)になっています。王朝を一つ特定できれば芋づる式に埋まる構造です。
上位校ではここが深くなる。「大乗仏教の教義を理論化した人物は誰か」(ナーガールジュナ)、「グプタ朝期のインド的な美術様式を何と呼ぶか」(グプタ様式)まで問われます。王朝ごとに政治・宗教・美術・文学を四列で表にすると、この形式に強くなります。
前6世紀頃のインドで仏教やジャイナ教が生まれた社会的背景について、当時の経済の変化と身分秩序に触れながら120字程度で説明せよ。
解答例と解説を見る
ガンジス川流域で都市と商工業が発達し、武士階層のクシャトリヤや庶民階層のヴァイシャが経済力を高めた。しかしヴァルナ制のもとで祭式を独占するバラモンが最上位に置かれていたため、彼らはこれに不満を持ち、身分によらず修行による救済を説く仏教やジャイナ教を支持した。(127字)
採点者が探しているもの。加点されるのは「経済的地位」と「宗教的地位」のずれです。経済力を得た層が、身分秩序の上では下に置かれている——この矛盾を書けているかが分かれ目になります。
よくある失点。仏教の教義の説明に字数を使ってしまうこと。設問が聞いているのは社会的背景であって教義ではありません。設問文の語を答案の中で受けてください。
次の文 a・b の正誤について、下の①〜④から正しい組み合わせを一つ選べ。
a ガンダーラ美術は、ヘレニズム文化の影響を受けて成立し、仏像が制作されるようになった。
b アジャンター石窟の壁画は、クシャーナ朝の保護のもとで制作された。
- a=正 b=正
- a=正 b=誤
- a=誤 b=正
- a=誤 b=誤
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a は正しい。ガンダーラ美術はヘレニズムの影響下に成立し、それまで象徴で表されていた仏を人の姿で表す仏像が作られるようになりました。
b が誤り。アジャンター石窟の壁画はグプタ朝期を中心とするもので、クシャーナ朝ではありません。美術作品と王朝の対応がずらされています。
この設問の型。早稲田の文学部・文化構想学部で出る正誤の組み合わせ形式です。二つの文を独立に判定してから組み合わせるため、片方が曖昧だと確率が一気に下がります。どちらか一方でも確実に判定できれば選択肢が半分に絞れるので、確信のある文から処理してください。
この単元での対策。文学部では美術作品の写真や絵が扱われます。ガンダーラ美術とグプタ様式は視覚的な特徴が異なるので、資料集の図版を実際に見比べておいてください。文字情報だけで覚えていると、図版が出た瞬間に手が止まります。
古代インドについて述べた次の①〜⑤のうち、誤っているものを二つ選べ。
- インダス文明では、排水設備を備えた計画的な都市が建設された。
- ヴァルナ制では、クシャトリヤが最上位に位置づけられた。
- アショーカ王は仏教に帰依し、ダルマによる統治を掲げた。
- グプタ朝の時代に、ヘレニズムの影響を受けたガンダーラ美術が成立した。
- ジャイナ教は、徹底した不殺生を説いた。
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②が誤り。ヴァルナ制の最上位は司祭であるバラモンです。クシャトリヤは武士階層で第二位。順位を一つずらすという単純な作り方ですが、四つの身分を暗記していないと判断できません。
④が誤り。ガンダーラ美術が成立したのはクシャーナ朝の時代です。グプタ朝期はインド的なグプタ様式。王朝を一つ後ろにずらす型で、この単元の「混同しやすいところ」で扱った論点そのものです。
この設問の型。②は序列のずらし、④は王朝のずらし。どちらも一段だけずらすのが特徴で、大きく外さないぶん気づきにくくなっています。
この単元の対策。「マウリヤ=仏教/クシャーナ=大乗仏教とガンダーラ美術/グプタ=ヒンドゥー教とグプタ様式」という王朝・宗教・美術の三点セットを表にしてください。この表があれば、④のような一段ずらしは即座に見抜けます。
次の文章を読み、設問1〜4に答えよ。目標時間は5分。
インダス文明の衰退後、進入したアーリヤ人は①ヴァルナ制と呼ばれる身分秩序を形成した。祭式を独占する( A )を頂点とするこの秩序に対し、前6世紀頃には新しい宗教が現れる。②仏教とジャイナ教である。
最初の統一王朝であるマウリヤ朝では、( B )王が仏教に帰依し、ダルマによる統治を掲げた。続くクシャーナ朝では大乗仏教が成立し、③ヘレニズムの影響を受けた美術が生まれる。
グプタ朝ではバラモン教が民間信仰を取り込んで( C )教として定着し、サンスクリット文学が栄えた。
設問1 空欄( A )〜( C )に入る語句を記せ。
設問2 下線部①の第二位に位置する身分を選べ。
ア ヴァイシャ イ クシャトリヤ ウ シュードラ
設問3 下線部②が支持された背景として正しいものを選べ。
ア 農村の共同体が強化されたため イ 都市と商工業の発達で新しい階層が台頭したため ウ 外来勢力の侵入により宗教が持ち込まれたため
設問4 下線部③の美術の名称を記せ。
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この設問の型。青学の全学部日程は1問あたり約1.2分。空所補充と下線部設問が連続します。文章を最初から精読せず、設問を見てから必要な箇所だけ読むのが原則です。
設問2は順序を問う。バラモン・クシャトリヤ・ヴァイシャ・シュードラの順です。四つを順番で暗唱できる状態にしておけば即答できます。序列を一段ずらす誤り選択肢は、この単元の EXAMPLE 05 でも扱いました。
設問3が本質を問う。仏教とジャイナ教が広がった背景は、経済力を得た層と身分秩序上の地位のずれです。アは逆(共同体の強化は既存秩序を補強します)、ウは事実に反します。速度勝負でも、こうした「なぜ」を問う設問は必ず混ざります。用語だけ覚えていると止まります。
設問4は落とせない。青学は文化史が必出とされ、南アジアでは仏教美術がその対象です。ガンダーラ美術(クシャーナ朝・ヘレニズム的)とグプタ様式(グプタ朝・インド的)の対応は、王朝とセットで覚えてください。
時間を稼ぐ場所。設問1と2は知っていれば各10秒で終わります。ここで稼いだ時間を設問3のような思考を要する問題に回す——この配分が、45〜50問を60分で処理する鍵になります。
※ 掲載している例題は、各大学の出題形式に合わせて日本世界史塾が作成したオリジナル問題です。実際の入試問題の転載ではありません。実際の過去問は、各大学が公表しているものや市販の過去問集でご確認ください。
通史を順番に読む
イスラーム世界の成立では、7世紀のアラビア半島に生まれた一神教が、西アジアから急速に広がります。南アジアで見た「宗教が社会の枠組みそのものになる」という現象が、別の形で現れる場面です。
例題は解けても、
本番の答案は別ものです。
自分の答案が何点なのかは、自分では判断できません。
体験授業では、実際に書いていただいた答案をその場で添削します。
入塾を前提としたしつこい勧誘は一切行いません。