ゾロアスター教とは|アヴェスター・神像・王権を資料6問で読む

ゾロアスター教は、古代イランの宗教史と結び付き、アフラマズダという神格や、聖典・儀礼の伝承を通じて学べる宗教です。『アヴェスター』という経典名を覚えるだけでなく、具体的な写本や作品へ進んでみましょう。ここではヤスナの口承と写本、ササン朝の王権を描く図像、現代の学芸解説を資料6問で比較します。 (根拠:Z1・Z2・Z3・Z4)
学ぶ際の軸は「何が信じられたか」に加えて、「その説明をどんな資料で確かめるか」です。古い文章が後の写本で伝わることも、古代の岩刻が近代の絵で記録されることもあります。時点と資料の種類を添えると、神名・経典・王朝名のつながりを具体的に理解できます。
アフラマズダと王権:後世の素描を読む
Metの作品解説は、アルダシール1世がアフラマズダから王権を示す輪を受け取る岩刻の図像を紹介します。アフラマズダは、オフルマズドとも表記される神格です。同じ説明は、神格の馬の足下にある相手をアーリマンという悪の霊とします。神名を、作品の中で担う役割と結び付けて学べます。 (根拠:Z4)
ただし、ここで参照する作品は古代の石の岩刻そのものではなく、1812年にLutf-'Ali Shiraziが紙に描いた素描です。館の目録には作者、年、素材、カージャール朝という時代の区分が記されています。古代の宗教と王権を学ぶ資料が、どの時点・どの媒体で残るかも確かめましょう。
問1 神名の同定と、絵が作られた年を分ける
資料メモ:Metの作品1998.6.3
1812年、Lutf-'Ali Shiraziが紙に描いた素描。題材はナクシュ・イ・ルスタムのササン朝岩刻で、アルダシール1世が、オフルマズド(アフラマズダ)から王権を示す輪を受ける場面と解説される。館は、神格の馬の足下の相手をアーリマンという悪の霊と説明する。
①王権を受ける人物、輪を渡す神格、神格の馬の足下の相手を対応させてください。②1812年は、古代の王の即位年・岩刻そのものの制作年・この素描の制作年のどれですか。③この作品について説明するときに分けて示すべき、「描かれた対象」と「現存する作品」を答えてください。
解答・根拠を確認する
解答例 ①アルダシール1世、オフルマズド(アフラマズダ)、アーリマン。②この素描の制作年。③対象は古代ササン朝の王権授与の岩刻、作品は1812年にLutf-'Ali Shiraziが紙に描いた素描である。
考え方 題名に古代の王名がある場合も、作者・制作年・素材を確認します。館による神格の同定を参照しながら、宗教と王権を結ぶ図像と、それを後世に記録する行為を別々に説明できます。
確認する力 神格・人物・制作時点を、作品の情報に対応させる。 (根拠:Z4)
経典の伝承と、1556年の写本を分ける
ヤスナは、ゾロアスター教の主要な儀礼であり、研究ではその実演と、写本が伝えるテキストの両方が扱われます。British LibraryのMSS Avestan 17は、Yasna sādahという題で、儀礼の本文を注釈なしで伝える写本として紹介されています。 (根拠:Z1・Z2)
この写本の完成年は、ペルシア語奥書に基づき1556年と説明されます。写本を作った時点、伝えられる内容の古さ、目録が作られた時点は、それぞれ別です。目録は、物の来歴や言語・文字を読み取る入口になります。
問2 1556年の写本が、何の年を伝えるか読む
資料メモ:British Library、MSS Avestan 17
目録の題名はYasna sādah。ヤスナ儀礼の本文を注釈なしで伝える写本と説明され、ペルシア語奥書に基づき1556年に完成したとされる。制作地はインドと記載される。
①1556年が直接示すのは、何の完成年ですか。②目録が参照する年代の根拠と、この写本の制作地を答えてください。③この目録から「ゾロアスター教やヤスナの本文は1556年に初めて生まれた」とまとめると、どの二つの時点を混同しますか。
解答・根拠を確認する
解答例 ①この写本一冊の完成年。②根拠はペルシア語奥書、制作地はインド。③ある写本を書き終えた時点と、宗教や伝承された本文の成立・伝承の時点を混同する。
考え方 写本の年は、その物の来歴を知る重要な情報です。それを本文そのものの初成立年へ移さず、書写、所蔵、後の研究という異なる時点のうち、どれを記す情報かを確かめます。
確認する力 個別写本の年代・場所と、本文の成立・伝承を区分する。 (根拠:Z2)
年号の覚え方・論述の型・入試分析を無料で配信しています。
ササン朝と国教についての説明を読む
Metのササン朝概説は、アルダシール1世が224年頃にパルティアを破ったことを述べ、シャープール1世の在位期にゾロアスター教が国教とされたと説明します。王朝名だけでなく、概説がどの王の時期に何を位置づけているかを押さえます。 (根拠:Z3)
この説明は、歴史と美術をまとめた現代の学芸概説です。一方、問1の素描の解説は、一つの図像に表された王と神格の関係を説明します。どちらも王権と宗教を学ぶ手がかりですが、示す情報の種類と広さは異なります。古代の制定法令そのものや、全住民の信仰の実態を知るには、さらにそれに対応する資料を調べる必要があります。
問3 国教についての現代概説を、範囲を保って読む
資料メモ:Metのササン朝概説
アルダシール1世が224年頃にパルティアを破ったとする。続いてシャープール1世の在位を241〜272年とし、その時期に中央政府や貨幣の変化とともに、ゾロアスター教が国教とされたことを説明する。
①概説が、国教とされた時期に結び付ける王の名を答えてください。②この資料は、古代の国教制定法令そのものですか、それとも現代の学芸概説ですか。③この段落の内容を、王朝・王の在位期・資料の種類が分かる一文で要約してください。
解答・根拠を確認する
解答例 ①シャープール1世。②現代の学芸概説。③例えば「Metの現代概説は、ササン朝のシャープール1世の在位期に、ゾロアスター教が国教とされたと説明する」と要約する。
考え方 王朝全体の長い期間と、概説が取り上げる王の時期を分けます。「国教」という説明があることと、個別の制定法令の全文や、全住民がどのように信仰したかを確認することは、必要な資料が異なります。
確認する力 王朝・王の時期・現代解説の役割をそろえて説明する。 (根拠:Z3)
口承・文字化・翻訳・注釈を整理する
MUYAの研究紹介は、ヤスナの最も古い部分を前2千年紀に位置づけ、アヴェスター語で口承され、後5〜6世紀まで文字化されなかったと説明します。また、儀礼の暗誦も研究上重要であり、写本だけでなく儀礼の実演も調べる方法を示しています。 (根拠:Z1)
この研究プロジェクトは2016〜2022年に行われ、紹介ページは儀礼の記録や校訂の成果を説明しています。古代・中世から伝わる言葉と、近現代の研究は、年代も目的も異なる資料の層です。
| 対象 | 何の時点か | 参照する説明 |
|---|---|---|
| ヤスナの古い本文層 | 前2千年紀に位置づけられる部分。 | MUYAの研究紹介。宗教全体の一斉成立年ではない。 |
| 口承から文字へ | アヴェスター語の伝承と、後5〜6世紀の文字化。 | 口承・文字による伝承についての研究上の説明。 |
| MSS Avestan 17 | 1556年に完成したとされる写本。 | ペルシア語奥書に基づくBritish Library目録。 |
| Met作品1998.6.3 | 1812年に描かれた古代岩刻の素描。 | 作者・素材を伴う現代の作品目録。 |
| MUYAの研究 | 2016〜2022年に行われたプロジェクト。 | 儀礼実演と写本を組み合わせる現代研究の紹介。 |
問4 口承・文字化・写本の完成を、三つの時点へ置く
MUYAの紹介は、ヤスナの最も古い部分を前2千年紀に位置づける。
同じ紹介は、アヴェスター語で口承され、後5〜6世紀まで文字化されなかったと説明する。
British LibraryのMSS Avestan 17は、目録で1556年完成とされる。
①A・B・Cを、古い本文層・文字化・一冊の書写の完了に対応させてください。②三つの情報を時点が分かる順で説明してください。③Aから、開祖の生年や、経典の全ての部分が一斉に完成した年まで決めてよいですか。
写本を読むときは、言語と文字も区分します。例えばMSS Avestan 17の目録では、グジャラート語の儀礼指示と、それを書くデーヴァナーガリー文字が説明されています。何語であるかと、どの文字で書くかは、同じ質問ではありません。 (根拠:Z2)
さらにMUYAの研究方法の説明は、複数写本を照合し、本文、儀礼指示、翻訳、注釈を区分して示すと述べます。現代の校訂を使う読者も、この区分を押さえれば、古い本文と後の説明を混ぜずに学べます。 (根拠:Z5)
問5 本文・儀礼指示・翻訳・注釈の役割を読む
資料メモ:写本目録とMUYAの説明
A:MSS Avestan 17の目録は、本文のほか、グジャラート語の儀礼指示がデーヴァナーガリー文字で書かれると説明する。
B:MUYAは、校訂のため複数写本を節ごとに照合し、二言語の写本では翻訳と注釈を分けて示すと説明する。
①Aで、「何語か」と「どの文字で書くか」に当たる語を、それぞれ答えてください。②Bが区分する翻訳と注釈は、同じ役割ですか。③異なる言語・文字や注釈がある写本を読む際、本文の意味を整理するために、どんな欄を作るとよいですか。
図柄の類似と、宗教の関係を考える
宗教や文化の関係を考えるときには、何が似ているのかを具体化します。Metのササン朝美術の解説は、注器や壺にある踊る女性像を、ギリシアの酒神に伴う女性たちや、季節の擬人像と比較します。そのうえで、器の種類と意匠から祭儀上の用途の可能性を考えています。 (根拠:Z3)
このように、図柄を比べること、用途を推定すること、教義そのものを調べることには、異なる手順があります。宗教間の関係も、一つの類似から全教義の同一性や一方向の借用を決めるのではなく、対象と根拠を明らかにして説明します。
問6 図柄の比較と、用途の推定を分ける
資料メモ:Metの美術解説
ササン朝の注器や壺の踊る女性像を、ギリシアの酒神に伴う女性たちや季節の擬人像に似たものとして説明する。さらに、その意匠が液体を注ぐ器に現れることから、ゾロアスター教に関わる祭儀上の用途の可能性を示す。
①資料が行う「図柄の比較」と「用途についての推定」を、それぞれ取り出してください。②解説は用途を確定した法令や、当時の全使用者の発言を示していますか。③図柄の類似を説明しつつ、それだけで異なる宗教の教義が全て同一だとはしない、二文の要約を作ってください。
解答・根拠を確認する
解答例 ①比較は、女性像が酒神に伴う女性たちや季節の擬人像に似るという点。推定は、器の種類と意匠から祭儀上の用途の可能性を考える点。②そのような資料ではなく、作品を比較する現代の学芸解説である。③例えば「学芸解説は、異なる伝統の図柄の類似を比較している。器の用途についての推定は示すが、類似だけで宗教の教義全体を同一とするものではない」とする。
考え方 形の共通点を見つけることと、用途や思想の伝わり方を確かめることは、別の段階です。「似ている」「可能性を示す」という説明の強さを保つと、作品の比較から分かることを過不足なく示せます。
確認する力 作品の観察・比較と、歴史的な解釈の確かさを区分する。 (根拠:Z3)
| 資料 | 具体的に読むこと | 資料の性格 |
|---|---|---|
| ヤスナの写本目録 | 書写年、制作地、言語と文字。 | 所蔵機関による現代の目録。 |
| 古代岩刻を描いた素描 | 王・神格の役割と、後世の描き手。 | 古代を題材とする1812年の紙の作品。 |
| ササン朝の学芸概説 | 国教という歴史の説明と、作品の用途の推定。 | 現代の専門家のまとめ・解釈。 |
| 写本を比べる校訂の説明 | 本文・儀礼指示・翻訳・注釈の区分。 | 複数の資料を扱う研究方法の説明。 |
- 神名と役割:作品の中の王・神格・相手を、学芸解説と対応させる。
- 内容と物の年代:古い本文層、文字化、個別写本、後世の素描を分ける。
- 文章の層:本文、儀礼指示、翻訳、注釈、現代の校訂を区分する。
- 説明の強さ:作品の比較や用途の可能性を、全ての信仰の実態へ広げない。
よくある質問
- アヴェスターの写本の年は、宗教が生まれた年ですか?
- 写本一冊の完成年と、伝えられる本文や宗教の成立・伝承の時点は分けます。例えばBritish LibraryのMSS Avestan 17は1556年完成とされますが、MUYAの研究紹介はヤスナの古い本文層と文字化を、それより前の時期に位置づけています。
- アフラマズダが描かれる作品は、全て古代の原物ですか?
- 制作年と素材を確かめます。本教材で参照するMet作品1998.6.3は、古代ササン朝の岩刻を描いた1812年の紙の素描です。描かれる神格や王の時代と、作品そのものが作られた時点を分けて読みます。
- ササン朝とゾロアスター教の国教化はどう学べばよいですか?
- Metの現代概説は、シャープール1世の在位期に国教とされたと説明します。まず王朝と王の時期を対応させ、その概説と古代の法令、個々の住民の信仰を直接示す資料とは役割が異なることを押さえましょう。
- 図像の類似があれば、宗教の教義も同じだといえますか?
- 図柄の比較、用途の推定、教義の内容は別々に確かめます。Metの解説は女性像の類似から器の祭儀上の用途の可能性を考えますが、それだけで異なる宗教の教義全体が同一だと決めることはできません。
出典と、この教材で読む範囲
所蔵機関の目録、後世の作品、現代の学芸解説・研究紹介を区分しています。資料メモ・設問・解答は編集部の日本語による要約と独自制作です。アヴェスター語原典の独自校訂・全文翻訳や、現物の独立判読ではありません。
-
Z1:The Multimedia Yasna — About
種類:SOASを拠点とした研究プロジェクトによる、口承・書写・儀礼研究についての現代の説明。
書誌・作品情報:The Multimedia Yasna(MUYA)、Almut Hintze率いる研究チーム。ERC助成、2016〜2022年。
参照範囲:ヤスナの古い本文層、口承と文字化、儀礼の実演と写本を合わせて研究する方法を参照しました。
読み取る範囲:古い本文層の年代、文字化の時期、個別写本の完成年を分けます。プロジェクトの概要を、宗教の全教義や開祖の生没年を確定する原典とはしません。
-
Z2:MSS Avestan 17 — Yasna sādah
種類:British Libraryが公開する、1556年の写本についての現代の所蔵目録。
書誌・作品情報:棚番号MSS Avestan 17、record032-003460406。完成年の説明はペルシア語奥書f.198vに基づく。
参照範囲:1556年の完成年、インドという制作地、言語・文字、本文と儀礼指示を説明する目録欄を参照しました。
読み取る範囲:この写本一冊の完成年と、儀礼テキストの伝承の古さを区分します。目録を介した読解であり、原写本の文字を独自に判読・翻訳したものではありません。
-
Z3:The Sasanian Empire (224–651 A.D.)
種類:The Metropolitan Museum of Artによる、歴史と美術についての現代の学芸概説。
書誌・作品情報:Department of Ancient Near Eastern Art / Blair Fowlkes-Childs。2003年初出、2016年改訂。
参照範囲:ササン朝と国教についての歴史概要、注器の女性像についての比較と用途の推定を参照しました。
読み取る範囲:現代の概説と、古代の法令・個別の作品は別の資料です。意匠の類似や用途の可能性を、全住民の信仰や宗教間の同一性の証明へ広げません。
-
Z4:Drawing of Sasanian rock relief: Ardashir I and Ohrmazd at Naqsh-i Rustam
種類:古代の岩刻を描いた1812年の素描についての、作品情報と現代の学芸解説。
書誌・作品情報:Lutf-'Ali Shirazi、1812年、カージャール朝、紙・鉛筆・インク。Met、作品番号1998.6.3。
参照範囲:作者・制作年・素材と、アルダシール1世、オフルマズド、アーリマンについての図像解説を参照しました。
読み取る範囲:後世の素描、描かれた古代岩刻、現代の人物同定を区分します。原岩刻や銘文の独自調査ではなく、所蔵館の説明に基づく比較です。
-
Z5:Edition and transcriptions of the Yasna
種類:MUYAの研究者による、使用写本、翻訳・注釈、校訂の進め方の現代の学術説明。
書誌・作品情報:MUYA、Procedure / List of Witnesses / Instructions。転写・校合の担当者と使用写本一覧を掲載。
参照範囲:複数写本の照合、読めない箇所等の扱い、本文・儀礼指示・翻訳・注釈の区分を参照しました。
読み取る範囲:現代の校訂は、写本の記述や違いを検討して本文を示す研究上の作業です。翻訳・注釈・校訂を、一冊の古代原本の同じ文章へまとめません。
次に学ぶ:王朝の順序と、統治の資料をつなげる
宗教に関わる作品を学んだら、イランを含む古代オリエントの諸王朝を、時期と統治の仕組みで整理できます。王の言葉を読む際も、誰が何のために記した資料かを確かめましょう。
教材の制作と授業について
本文の改稿・資料メモ・確認問題の制作と編集:日本世界史塾編集部。運営者と授業担当者は下記で紹介しています。教材の編集と、講師紹介・授業の案内を分けて掲載しています。
世界史専門オンライン塾「日本世界史塾」の編集部が、入試での問われ方を基準に作成しています。当塾では次の講師が指導にあたっています。
世界史を「暗記科目」から「得点源」に変える
日本世界史塾は、担任制マンツーマンの世界史専門オンライン塾です。
まずは体験授業で、あなたの答案と勉強法を直接診断します。
体験授業に申し込む(3,300円・税込)
入塾を前提とした勧誘は行いません/全国・海外から受講可

