Unit 12

産業革命と社会の変化

機械が人の手にとって代わり、社会の構造そのものが組み替えられた。この単元の軸は「技術の連鎖が、新しい階級を生んだ」という一本の線です。発明の羅列に見えるものは、実はボトルネックを順に解消していった連鎖であり、その先に資本家と労働者という対立が現れます。

Overview

この単元の位置づけ

単元11で政治的な平等が掲げられた直後に、この単元で経済的な不平等が新しい形で生まれます。理念と現実のずれが、次の単元以降の社会主義運動と、単元14の帝国主義を準備します。

1

条件がそろっていたのはイギリスだけだった

なぜイギリスから始まったか

単一の理由ではありません。労働力——第2次囲い込みで農村から人が押し出された。資本——大西洋三角貿易などで蓄積があった。市場——広大な植民地を持っていた。資源——石炭と鉄に恵まれていた。技術——毛織物工業の蓄積があった。政治——名誉革命以降が安定していた。論述ではこの6つのうち3つ以上を選んで書くのが基本です。

2

発明は、連鎖として起きた

綿工業の技術革新

ここが最も誤解されるところです。発明は同時多発ではありません。片方が速くなると、もう片方が追いつかなくなる——この繰り返しで進みました。
まず飛び杼によって織る速度が上がり、糸が不足します。
そこでジェニー紡績機・水力紡績機・ミュール紡績機と紡ぐ技術が改良され、今度は糸が余りました。
そこへ力織機が登場し、織る側が再び追いつきます。
さらにワットが蒸気機関を改良したことで、動力が水力から蒸気へ移り、工場を川のそばに置く必要がなくなります。立地が自由になったことが、都市への集中を決定づけました。

3

働き方が変わり、階級が生まれた

工場制機械工業

問屋制家内工業から工場制機械工業へ移ると、生産手段である機械と工場を所有する資本家と、自分の労働力を売る労働者という関係が成立します。人口は都市に集中し、長時間労働・低賃金・児童労働・スラムといった問題が生じました。労働者は機械の打ちこわしという形で抵抗しますが、やがて工場法の制定や労働組合の結成という制度的な対応へ向かいます。抵抗の形が、破壊から交渉へ変わった——この推移が論述で問われます。

4

現実を説明する思想が求められた

自由主義と社会主義

アダム=スミスに始まる自由主義は、市場に任せることで富が増えると説き、産業資本家に支持されました。一方で現実の貧困を前に、社会主義が登場します。オーウェンらは理想的な共同体を構想し、のちにマルクスとエンゲルスが階級闘争を軸に資本主義の仕組みそのものを分析しました。同じ社会を見て、正反対の処方箋が出た——それだけ変化が急激だったということです。

5

世界が、工業国と原料供給地に分かれた

波及と国際分業

イギリスは「世界の工場」と呼ばれ、続いてベルギー・フランス・ドイツ・アメリカ、さらにロシアや日本へ工業化が広がります。後発国では、先発国に対抗するため保護貿易や国家主導の工業化が採られました。同時に、工業製品を輸出する国と原料を供給する地域という国際分業の構造ができあがります。この構造が、次の単元で見る帝国主義の土台になります。

Confusables

混同しやすいところ

正誤判定の誤り選択肢は、ここを狙って作られます。

紡績機の三つ

ジェニー紡績機=ハーグリーヴズ、水力紡績機=アークライト、ミュール紡績機=クロンプトン。人物と機械の入れ替えが最頻出です。ミュールは前二者を組み合わせたものと覚えると順序も定まります。

飛び杼 と 紡績機

飛び杼織るための道具(ジョン=ケイ)。紡績機糸を紡ぐ機械。工程が違います。「飛び杼によって糸の生産が増えた」は誤りです。

第1次囲い込み と 第2次囲い込み

第1次は毛織物向けの牧羊が目的で、非合法に進行。第2次は穀物増産が目的で、議会主導の合法的なもの。産業革命の労働力供給に直結するのは第2次です。

オーウェン と マルクス

オーウェンらは理想的な共同体の建設を構想(空想的社会主義と呼ばれる)。マルクスは階級闘争によって資本主義が変革されると分析(科学的社会主義)。人物と立場の入れ替えが定番です。

Private Universities

早稲田・明治・青山学院ではこう問われる

経済史・社会史の中核であり、商学部系で最も出題密度が高い単元です。

過去問の掲載についてこのページの例題は、各大学の出題形式に合わせて当塾が作成したオリジナル問題です。実際の入試問題そのものは掲載していません。実物は各大学が公表しているものや市販の過去問集でご確認ください。
Practice

この単元は、入試でこう問われる

出題形式ごとに例題を用意しました。答えを見る前に、まず自分で書いてみてください。

EXAMPLE 01共通テスト型/正誤判定

産業革命について述べた文として誤っているものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。

  • ジョン=ケイが考案した飛び杼により、織る速度が向上した。
  • ワットによる蒸気機関の改良により、工場の立地が水力に縛られなくなった。
  • 第2次囲い込みは、毛織物生産のための牧羊地拡大を目的として非合法に進められた。
  • 工場制機械工業の成立により、資本家と労働者という関係が生まれた。
解答と解説を見る
正解:③

なぜ誤りか。牧羊のための非合法な囲い込みは第1次です。第2次は穀物増産を目的とし、議会主導で合法的に進められました。目的・時期・合法性の三点がまとめてすり替えられています。

この設問の型。同名で番号だけ違う事項の中身を入れ替える型です。「第1次/第2次」「第一回/第二回」と番号がつく用語は、それぞれの目的をセットで覚えてください。

EXAMPLE 02私大型/語句記述

次の文中の空欄( A )〜( C )に入る最も適切な語句を答えよ。

産業革命期のイギリスでは、農村から人々が押し出される要因となった( A )が進行した。動力面では( B )が蒸気機関を改良し、工場の立地が大きく変わった。思想面では、( C )とエンゲルスが階級闘争にもとづく社会主義を説いた。

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正解:A=第2次囲い込み B=ワット C=マルクス

この設問の型。社会・技術・思想という三つの側面を一問で問う形式です。産業革命は「なぜ起きたか(社会)」「どう進んだか(技術)」「何を生んだか(思想)」の三層で整理しておくと、どこを聞かれても答えられます。

上位校ではここが深くなる。「蒸気機関車を実用化した人物は」(スティーヴンソン)、「自由主義経済を説いた『諸国民の富』の著者は」(アダム=スミス)まで問われます。

EXAMPLE 03国公立型/論述(120字程度)

産業革命がイギリスで最初に始まった理由を、労働力・資本・市場の観点から120字程度で説明せよ。

解答例と解説を見る
解答例

第2次囲い込みによって農村から押し出された人々が、工業の労働力として供給された。また大西洋三角貿易などを通じて商業資本が蓄積され、機械や工場への投資が可能となった。さらに広大な植民地を保有していたため、製品を販売する市場と原料の供給地を確保できた。(123字)

採点者が探しているもの。設問が三つの観点を指定しているので、答案も三つに分けて書きます。指定された観点を落とすと、他がどれだけ充実していても加点されません。

よくある失点。「石炭と鉄に恵まれていた」だけを書くこと。資源は重要ですが、設問が挙げた三観点には含まれていません。設問が指定した枠に沿って書くのが論述の第一原則です。

EXAMPLE 04早稲田型/組み合わせ選択

次の a〜c は産業革命期の技術革新に関する説明である。それぞれに対応する人物の組み合わせとして正しいものを、下の①〜④から一つ選べ。

a 多数の紡錘を一度に動かし、一人で多くの糸を紡げるようにした紡績機を考案した。
b 水力を動力とする紡績機を考案し、工場での生産を可能にした。
c 先行する二つの紡績機の長所を組み合わせた紡績機を考案した。

  • a=アークライト b=ハーグリーヴズ c=クロンプトン
  • a=ハーグリーヴズ b=アークライト c=クロンプトン
  • a=クロンプトン b=アークライト c=ハーグリーヴズ
  • a=ハーグリーヴズ b=クロンプトン c=アークライト
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正解:②

対応。a=ジェニー紡績機(ハーグリーヴズ)/b=水力紡績機(アークライト)/c=ミュール紡績機(クロンプトン)。

この設問の型。早稲田を含む私大で多い組み合わせ選択です。3つのうち1つでも確実に分かれば選択肢が絞れるのが特徴で、全部を思い出す必要はありません。今回なら c の「先行する二つを組み合わせた」という記述からミュール紡績機=クロンプトンが確定し、その時点で①と②に絞れます。あとは a と b のどちらかを判定すれば決まります。

解く順序。最も特徴的な記述から処理する。c は「組み合わせた」という決定的な手がかりがあるので、ここから入るのが最短です。a と b は説明が似ているため、先に手をつけると迷います。

覚え方。ミュールとはラバのことで、馬とロバの交配種を意味します。「二つを掛け合わせたもの」という名前そのものが、クロンプトンの紡績機の性格を表しています。語の由来から入ると、この三つは二度と混ざりません。

商学部志望者へ。経済史はほぼ毎年出題され、用語集の注釈レベルまで問われます。紡績機の三つは注釈レベルではなく必須なので、ここを落とすと差がつきます。

EXAMPLE 05早稲田商学部型/短論述(100字程度)

産業革命期のイギリスにおいて、労働者の抵抗の形が機械の打ちこわしから労働組合の結成へと変化した。この変化について100字程度で説明せよ。

解答例と解説を見る
解答例(97字)

当初、労働者は失業の原因を機械そのものとみなして打ちこわしを行ったが、やがて問題は機械ではなく労働条件にあると認識されるようになり、団結して交渉する労働組合の結成や工場法の制定を求める動きへ移行した。

この設問の型。早稲田商学部で例年出る100字程度の論述です。学部の性質上、経済史・社会史が主題になりやすく、産業革命期の労働問題はその中心にあります。

採点者が探しているもの。加点の核心は「原因の認識が変わった」という一点です。「打ちこわしをした」「労働組合を作った」と出来事を並べるだけでは、なぜ形が変わったのかが説明されていません。機械が敵だという認識から、労働条件こそが問題だという認識へ——この転換を書いてください。

100字での配分。設問が「変化」を問うているので、前半50字で変化前、後半50字で変化後と割ります。ラダイト運動や工場法といった固有名詞を入れたくなりますが、字数を圧迫するわりに加点は限定的です。短い論述では、固有名詞より論理を書く——単元13でも触れた原則がここでも効きます。

よくある失点。労働環境の悲惨さを列挙してしまうこと。長時間労働や児童労働は背景ですが、設問は抵抗の形の変化を聞いています。設問文の語を答案で受けてください。

EXAMPLE 06青山学院大学 全学部日程型/速度重視の連続処理

次の文章を読み、設問1〜4に答えよ。目標時間は5分

18世紀のイギリスでは、①第2次囲い込みによって農村から人々が押し出され、工業の労働力となった。綿工業では技術革新が連鎖し、( A )が織る速度を上げると糸が不足し、紡績機の改良が続いた。②ワットによる蒸気機関の改良は、動力を水力から蒸気へ移す。
生産の場が工場へ移ると、機械と工場を所有する( B )と、労働力を売る労働者という関係が生まれた。労働者は当初③機械の打ちこわしで抵抗したが、やがて団結して交渉する道を選ぶ。
思想面では、市場に任せることで富が増えると説く自由主義に対し、( C )とエンゲルスが階級闘争を軸に資本主義を分析した。

設問1 空欄( A )〜( C )に入る語句を記せ。
設問2 下線部①の目的として正しいものを選べ。
 ア 牧羊地の拡大 イ 穀物の増産 ウ 鉱山の開発
設問3 下線部②がもたらした変化として正しいものを選べ。
 ア 工場を河川沿いに置く必要がなくなった イ 家内工業が主流になった ウ 農業人口が増加した
設問4 下線部③の運動の名称を記せ。

解答と解説を見る
解答:1 A=飛び杼/B=資本家/C=マルクス 2 イ 3 ア 4 ラダイト運動(機械打ちこわし運動)

この設問の型。青山学院大学の全学部日程は60分で大問3題・解答総数45〜50問、1問あたり約1.2分です。まず空所を埋め、次に下線部設問へという順序を守ってください。

設問2が引っかけ。牧羊地の拡大は第1次囲い込みの目的です。第2次は穀物の増産で、議会主導の合法的なものでした。番号がつく用語は、それぞれの目的をセットで覚えていないと即答できません。

設問3の判断。蒸気機関の意義は「立地の自由」です。イとウは方向が逆——工場制が広がったのだから家内工業は後退し、都市化が進んだのだから農業人口は減ります。選択肢の向きが逆のものは、内容を知らなくても切れる場合があります。速度勝負では有効な判断です。

青学で産業革命が重い理由。青学は欧米史が中心で、この単元は重点分野です。またマーク部分は共通テストに近い出題形式・難易度とされるため、共通テスト併用方式を使う場合は対策が二重に効きます

速度を上げる練習。この形式では、知識の量より取り出す速さで差がつきます。大問1つを20分以内で終える練習を、時計を置いて繰り返してください。

※ 掲載している例題は、各大学の出題形式に合わせて日本世界史塾が作成したオリジナル問題です。実際の入試問題の転載ではありません。実際の過去問は、各大学が公表しているものや市販の過去問集でご確認ください。

Units

通史を順番に読む

国民国家の形成は、産業革命が生んだ都市労働者と中間層を、政治の主体として組み込む過程でもあります。参政権の拡大と国民統合が並行して進みます。

Trial Lesson

組み合わせ問題は、
一つ分かれば解ける。

全部思い出そうとして時間を失う受験生が多い。
体験授業では、解く順序そのものを一緒に組み立てます。

入塾を前提としたしつこい勧誘は一切行いません。