総力戦とは?戦争が社会を変えるという発想

総力戦とは?戦争が社会を変えるという発想
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第一次世界大戦の本質は「総力戦」——軍隊だけでなく、国民・経済・科学のすべてを動員する戦争になったことです。そして重要なのは、この動員が終わったあと、動員された人々が対価を要求したという点。女性参政権も、労働者の地位向上も、植民地の独立運動も、総力戦の帰結です。戦争が社会を変えた仕組みを追います。

なぜ総力戦になったのか

一言でいうと国家が人的・物的・精神的資源のすべてを動員して戦う戦争の形態。第一次世界大戦で本格化し、戦争と社会の関係を根本的に変えた
  1. 産業革命により、大量の兵器を継続的に生産できるようになった。
  2. 鉄道により大量の兵員と物資を前線へ運べるようになった。
  3. 機関銃・鉄条網の発達で防御が有利になり、塹壕戦となって戦線が膠着した。
  4. 短期決戦の見込みが崩れ、戦争が長期化した。
  5. 長期化すれば物資と人員を供給し続けられる側が勝つ——つまり国力の総動員が勝敗を決めることになった。
  6. 各国は挙国一致体制をとり、経済を統制し、国民を動員した。
「技術が戦争の形を変えた」機関銃と鉄条網によって防御が攻撃より有利になった——だから前進できず塹壕戦になり、長期化しました。「技術の変化 → 戦術の膠着 → 戦争の長期化 → 総力戦」という因果の連鎖で書いてください。戦車・毒ガス・飛行機・潜水艦はこの膠着を破るために投入された新兵器です。
「短期決戦の想定」が崩れたドイツはシュリーフェン=プランにより、西でフランスを短期間で倒し、次いで東でロシアに向かう計画でした。しかしマルヌの戦いで阻止され、二正面での長期戦に引きずり込まれます。計画の前提が崩れた瞬間として押さえてください。

何が動員されたのか

動員されたもの 内容
経済 統制経済。原料の配給、生産の割り当て、価格の統制
労働力 女性が工場や事務へ進出。労働組合が体制に協力
科学 毒ガス・戦車・航空機・潜水艦の開発
言論 プロパガンダと報道統制で戦意を維持
植民地 兵士・労働力・物資を本国のために供出
  1. 男性が徴兵されたため、女性が軍需工場・交通・事務に進出した。
  2. 労働組合は戦争協力と引き換えに発言力を高めた
  3. 植民地からはインド兵・アフリカ兵などが動員され、多くが本国のために戦った。
  4. 自治や独立の約束が示唆された地域もあった。
  5. 国民の負担が極限に達すると、厭戦気分と革命が生じた。
  6. ロシア革命は、その最も大きな帰結である。
「動員は請求書を残す」総力戦を理解する鍵は、これです。国家が「あなたの力が必要だ」と言って動員した以上、戦後に「では権利をよこせ」と言われる女性参政権・労働者の地位向上・植民地の独立運動は、すべてこの請求書です。日本世界史塾では、これを「総力戦の請求書」と呼んで教えています。
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戦後 — 請求書が支払われた分と、されなかった分

動員された人々 戦後に得たもの
女性 参政権——イギリス・ドイツ・アメリカなどで実現
労働者 労働条件の改善、社会保障、労働組合の地位向上ILOの設立
兵士(男性) 多くの国で普通選挙が実現
植民地の人々 ほとんど得られなかった——民族自決は敗戦国の支配地域に限定して適用
  1. ウィルソンの十四カ条民族自決を掲げた。
  2. しかし実際に適用されたのは東欧(旧ドイツ・オーストリア・ロシアの支配地域)が中心であった。
  3. アジア・アフリカの植民地には適用されなかった
  4. 中東は委任統治という形で、実質的に英仏の支配下に置かれた。
  5. この落差が、インドの反英運動・中国の五・四運動・朝鮮の独立運動などの高揚を生んだ。
  6. 「約束が果たされなかった」という経験そのものが、民族運動を鍛えた
民族自決の「選択的適用」「原則は普遍的に語られ、適用は選択的だった」——第一次世界大戦後を論じる際の必須の留保です。これを書ける受験生は多くありません。東大・一橋の論述で確実に差がつきます。
戦後の国際秩序の枠組みヴェルサイユ体制(ヨーロッパ)ワシントン体制(アジア・太平洋)の2本立てで押さえてください。ワシントン会議では海軍軍縮・四カ国条約(日英同盟の解消)・九カ国条約(中国の主権尊重)が決まりました。

総力戦の第2ラウンド — 第二次世界大戦

第一次世界大戦 第二次世界大戦
戦場 主にヨーロッパ 世界規模(欧州・アジア・太平洋・アフリカ)
兵器 機関銃・毒ガス・戦車の登場 戦車・航空機の大規模運用原子爆弾
市民の被害 主に前線の兵士 戦略爆撃により市民が直接の標的に
動員の徹底 初の本格的な総力戦 さらに徹底。占領地の資源と労働力も動員
戦後の秩序 国際連盟(不十分) 国際連合ブレトン=ウッズ体制
植民地 民族自決は限定的 アジア・アフリカの独立が現実化
  1. 第二次世界大戦では、市民が直接の攻撃対象となり、被害は桁違いに拡大した。
  2. 戦後、植民地の独立が現実のものとなった。宗主国が疲弊し、独立運動が組織化されていたためである。
  3. 国際秩序は国連と経済体制の2本立てで再設計された。
  4. 同時に米ソの対立が始まり、冷戦へ移行した。
「2つの大戦を一本でつなぐ」第一次で総力戦が始まり、請求書の一部だけが支払われた。支払われなかった分(植民地の独立)が、第二次のあとに実現した——この見方で書くと、20世紀前半が一本の線になります。「なぜ第二次大戦後にアジア・アフリカが独立できたのか」という設問に、この視点で答えてください。

入試で狙われるポイント総覧

  • 総力戦=人的・物的・精神的資源のすべてを動員する戦争
  • 背景=産業革命と鉄道機関銃と鉄条網による塹壕戦と長期化
  • 新兵器=戦車・毒ガス・航空機・潜水艦
  • シュリーフェン=プランの失敗(マルヌの戦い
  • 動員の帰結=女性参政権・労働者の地位向上・普通選挙
  • 民族自決敗戦国の支配地域に限定して適用、植民地には及ばず
  • 中東は委任統治で実質的な英仏支配
  • 戦後秩序=ヴェルサイユ体制ワシントン体制の2本立て
  • ワシントン会議=海軍軍縮・四カ国条約(日英同盟解消)九カ国条約
共通テストでの出方「民族自決によりアジア・アフリカの植民地が独立した」は誤り(適用は限定的)。「第一次世界大戦は短期間で終わると予想され、実際に短期間で終わった」も誤り(長期化)。「女性参政権は第一次世界大戦以前にほとんどの国で実現していた」も誤り戦争と社会変化の因果が狙われます。
この記事の一問一答(確認テスト)
Q1. 国家が人的・物的・精神的資源のすべてを動員する戦争を何というか。
A. 総力戦
Q2. 戦線が膠着し塹壕戦となった技術的な理由を答えよ。
A. 機関銃と鉄条網により防御が攻撃より有利になったため
Q3. ドイツの短期決戦計画と、それが阻止された戦いを答えよ。
A. シュリーフェン=プラン、マルヌの戦い
Q4. 総力戦の結果、女性が獲得した権利は。
A. 参政権
Q5. ウィルソンが掲げた原則と、その適用範囲の限界を答えよ。
A. 民族自決。主に敗戦国の支配地域に限定され、アジア・アフリカの植民地には適用されなかった
Q6. 第一次世界大戦後の国際秩序を2つの体制名で答えよ。
A. ヴェルサイユ体制とワシントン体制

よくある質問

なぜ総力戦になったのですか?
機関銃と鉄条網により防御が有利になり、塹壕戦で戦線が膠着して長期化したためです。長期戦では物資と人員を供給し続けられる側が勝つため、国力の総動員が必要になりました。
総力戦はなぜ社会を変えたのですか?
国家が「あなたの力が必要だ」と動員した以上、戦後に権利を要求されるからです。女性参政権、労働者の地位向上、普通選挙は、いずれも動員の対価として実現しました。
民族自決はなぜ植民地に適用されなかったのですか?
戦勝国が自国の植民地を手放す意思がなかったためです。適用は主に敗戦国の支配地域に限られ、中東は委任統治という形で実質的に英仏の支配下に置かれました。
第二次世界大戦との違いは何ですか?
市民が直接の標的になったことと、戦後に植民地の独立が現実化したことです。第一次で支払われなかった請求書が、第二次のあとに支払われたと見ることができます。
この記事について

世界史専門オンライン塾「日本世界史塾」の編集部が、入試での問われ方を基準に作成しています。当塾では次の講師が指導にあたっています。

藤原 進之介日本世界史塾 代表/株式会社数強塾 代表数強塾グループ創業者。東進最年少講師、代々木ゼミナールの日本初となる情報Ⅰ講師を務め、著書は9冊。累計2,500名以上の指導と、40名を超えるプロ講師体制を築いた。
伊藤 敏代々木ゼミナール世界史講師/数強塾グループの映像授業を担当筑波大学・同大学院修士課程修了。ダイヤモンド・オンラインで「カリスマ世界史講師が教える誰も知らない本当の世界史」を連載。「キャラクターがいて、ストーリーがある。それが歴史」を掲げ、通説を多様な視点から捉え直す授業を行う。

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